シェルフは「良きホスト役」であるべき。ガブリエル・タン氏が〈タンカ〉に込めた想い
2026.10.06

シェルフは「良きホスト役」であるべき。ガブリエル・タン氏が〈タンカ〉に込めた想い

〈タンカ〉は、海外ディーラーから寄せられた「和の雰囲気を感じられ、空間をゆるやかに仕切ることができるシェルフ」という要望をきっかけに生まれました。そのデザインを手がけたプロダクトデザイナー、ガブリエル・タン氏に、〈タンカ〉に込めた想いを語っていただきました。


ガブリエル・タン

1982年シンガポール生まれでシンガポールとポルトガルを拠点に活動するデザイナー。海軍士官の訓練中にデザインに目覚めた異色の経歴を持ち、デザイン集団「Outofstock」を経て、2016年に「Gabriel Tan Studio」を設立。家具や照明を含むインテリア全般を幅広く手掛けており、アジアと欧州の感性を融合させ、伝統や工芸、テクノロジーを現代的に再解釈した持続可能なデザインを追求している。現在は世界的なブランドにデザインを提供するほか、日本の家具ブランドのクリエイティブ・ディレクターも務める。2025年、シンガポール最高峰の「プレジデント・デザイン・アワード」にてデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞。

シェルフは「良きホスト役」

私がタンカをデザインするとき、最初に考えたのは「シェルフとはどのような存在であるべきか」ということでした。シェルフという家具は、本や写真、小物など、その人が積み重ねてきた思い出や思い入れと共に暮らす家具です。ですからこの家具そのものが主役になってはいけないと考えました。

もちろん、家具には個性が必要です。しかしその個性は、使う人の暮らしや、大切なものを覆い隠してしまうようなものであってはいけません。シェルフは「良きホスト役」であるべきだと私は思っています。

ホストは自分が目立つためではなく、訪れた人を心地よく迎え、その場の主役を引き立てます。シェルフも同じです。主役は、そこに並ぶ本であり、旅先で見つけた器であり、家族の写真であり、子どもが学校で作った作品です。シェルフは、それらを静かに受け止め、その魅力を引き立てる存在であってほしい。それがこのデザインの出発点でした。

構造はできるだけ明快にしながらも、細部にはほどよい「面白み」を持たせたい。長く暮らしの中にあっても飽きることなく、それでいて近づいて見るたびに新しい発見がある。そんな家具を目指しました。

本は、タンカの原点です

シェルフ 120-4, 150-4 樹種・塗装:北海道ニレ 霞

シェルフという家具について考えていたとき、私は「この家具は、何を収めるためのものなのだろう」と自分に問いかけました。

もちろん、人によって飾るものは違います。器やオブジェ、植物を飾る人もいるでしょう。それでも、私の中で最初に思い浮かんだのは、本でした。本は、シェルフにとって最も身近で、最も象徴的な存在だと思ったのです。

特に、ハードカバーの本が持つ造形の美しさに魅力を感じています。

丸みを帯びた背表紙。
少しへこんだ小口。
並べたときに生まれるリズム。

本には、とても美しい幾何学があります。私は、その美しさを家具の中にも取り入れたいと思いました。だからタンカでは、支柱と棚板のエッジに異なる表情を与えています。一方は本の背表紙を思わせる、やわらかな凸形状。もう一方は、本の小口をイメージした凹形状です。

モチーフはハードカバーの本。前面のエッジは本の小口に倣ったシャープな形状に、対する背面では背表紙の丸みを再現しています。

この違いは、遠くから見るとほとんど分かりません。しかし、近づいて家具に触れたとき、あるいは光が当たったとき、その繊細な陰影が表情を生み出します。私は、こうした小さな発見を大切にしています。

家具は毎日使うものです。だからこそ、派手さではなく、時間をかけて少しずつ好きになっていける美しさが必要だと思っています。

支柱が、本の風景に溶け込む

もう一つ、私が面白いと感じていたことがあります。それは、本を並べたときに、支柱の存在が自然と背景に溶け込んでいくことです。

私は、シェルフそのものを目立たせたいとは考えていません。主役は、本です。だから支柱も、本と呼応するような形であれば、家具はより自然に空間へなじみ、本の存在を引き立てられるのではないかと考えました。

タンカのディテールには、そんな思いを込めています。

【編集部コメント】

本をモチーフにしたディテールを持つ仕切り板は、90度回転させた向きで取り付けることで十分な強度を確保。同時に、本を飾るというライフスタイル提案も込めて設計されています。こうした工夫は、デザインの美しさだけでなく、ロングライフプロダクトとしての機能性にもつながっています。

美しさは、見えない工夫から生まれます

デザインを考えるとき、私はまず「こう見せたい」という理想を描きます。でも、その理想はデザインだけでは完成しません。素材をどう使うのか。どのようにつくるのか。そうした製造の知恵があって初めて、一つの家具になります。

今回、カンディハウスとの仕事で私が強く感じたのは、その対話の面白さでした。

【編集部コメント】

タンカでは、材料の有効活用と価格のバランスを考え、棚板には無垢材ではなく突板を採用しています。しかし、単に材料を置き換えただけではありません。目指したのは、「上質さを感じられること」でした。

一見すると無垢材のように見える棚板


価格も抑えたいが上質さは追求したい。そこでこだわったのが棚板の見え方です。突板を使いながらも、無垢材のような質感に見えるよう、小口の処理など細部まで設計しました。

芯材に無垢材の付け木を付けた状態

この上に突板を貼ります


この仕上がりを実現できたのは、自社で突板を管理し、加工まで一貫して行っているからです。一般的には突板が貼られた合板を購入したり、貼り加工を外部へ依頼することも少なくありません。カンディハウスでは、丸太の選定から突板づくり、加工方法まで自社で関わることで、素材の表情を最大限に引き出す構造を可能としています。

▼タンカの棚板構造


ものづくりは、対話から生まれる

旭川ショップ内にて試作をチェックするタンさん。

実際の使用シーンをイメージしながら、細部を調整していきました。

私にとって、今回の開発で最も印象に残っているのは、旭川で過ごした試作の時間です。図面を描いて終わりではありませんでした。工場へ行き、試作品を見て、その場で議論し、新しいアイデアを試す。その繰り返しの中で、タンカは少しずつ形を変えながら完成へ近づいていきました。

今回がカンディハウスとの初めてのプロジェクトでしたが、旭川で開発チームと対面でアイデアを交わした試作プロセスは、本当に楽しいものでした。工場を訪れるたびにデザインは進化しました。実は完成した製品は、最後の打ち合わせで生まれた即興的なアイデアも多く取り入れられています。スケッチや3Dデータだけでは生まれないものがあります。人と人が向き合い、会話を重ねることこそが、本当の製品開発なのだと私は感じました。

タンカの発売時には、タンさんを本社・旭川に迎え、開発担当者とともに製品のプレゼンテーションを行いました。

私は木という素材が好きです。同じ木は二つとしてありません。だからこそ、デザインは素材より前に出るものではなく、その美しさを引き出す存在であるべきだと思っています。今回、カンディハウスのものづくりに触れ、その考えを共有できたことを、とてもうれしく思っています。

家具も、暮らしとともに成長していきます

家具とは納品した瞬間がゴールではありません。使い手の暮らしが変われば、家具との付き合い方も変わっていく。それが自然なことだと考えています。

家族が増えることもあれば、住まいが変わることもあります。それに合わせて、本や器、思い出の品も少しずつ増えていくでしょう。だから私は、タンカをモジュールシステムとして設計しました。まずは一つ購入し、広い家へ引っ越した際に買い足して拡張することもできます。二つのシェルフを並べても、長さの異なる棚同士が違和感なく一体化するよう設計しています。

シェルフ120-2と180-1を組み合わせると、横幅3メートルのシェルフに。単体での使用はもちろん、組み合わせることで、空間や暮らしに合わせたさまざまな使い方が広がります。

家具を買い替えるのではなく、暮らしの変化に合わせて少しずつ形を変えていく。私は、その積み重ねも家具の魅力だと思っています。使い手が本を並べ、写真を飾り、思い出を重ねていくように、このシェルフもまた、その人の人生とともに少しずつ育っていく。そんな存在になってくれたら、とてもうれしく思います。

【編集部コメント】

暮らしの変化に寄り添いながら、長く使い続けられるように考えられた〈タンカ〉。その名前にも、この家具が生まれるまでのストーリーが込められています。

「タンカ」として命名

「タンカ」という名前も、この家具の一部です。

私が最初に提案した名前は、日本の伝統的な詩である「短歌(Tanka)」でした。私は、日本の短歌が持つ五・七・五・七・七という音のリズムに惹かれていました。シェルフの支柱が一定のリズムで並ぶ様子と重なり、どこか詩的な印象を感じたからです。

その後、カンディハウスの皆さんが、私の姓である「Tan」と、棚やフレームを表す漢字「架(か)」を組み合わせた、別の意味付けを提案してくださいました。私は、そのアイデアがとても気に入りました。単なるコンセプトだった名前が、このプロジェクトならではの、とてもパーソナルな名前へと変わったからです。

この名前にも、デザインと同じように、対話の積み重ねがあります。だから私は、「タンカ」という名前そのものも、この家具の一部だと思っています。

【おわりに】

「シェルフは、良きホスト役であるべき」というガブリエル・タン氏の想いから始まり、旭川の開発チームとの対話を重ねながら形になった〈タンカ〉。

本から着想した繊細なディテール、素材の美しさを引き出すものづくり、そして、暮らしの変化に寄り添う佇まい。その一つひとつに、デザイナーとつくり手が重ねてきた想いが込められています。

使う人の大切なものを静かに受け止めながら、ともに時を重ねていく。〈タンカ〉が、そんな「良きホスト役」として、それぞれの暮らしに寄り添う存在になればと願っています。

タンカ アイテム一覧