木の表情を見極める職人から生まれる「一本技」
2025.09.25

木の表情を見極める職人から生まれる「一本技」

デビュー25年を経てなお、木の生命力とデザイン性が融合した特別な存在として、木を愛する暮らし手から支持を集めている「一本技」。ダイニングテーブルやキャビネットなどのホームユース向けのアイテムはもちろん、一本技の材料と職人技を駆使した特注家具も高い人気を誇ります。

今回は、北海道美瑛町の宿泊施設に納品した置床(部屋の壁面に置き床の間のように使用する台)の制作風景をご紹介。希少な材料としてなかなかお目にかかれない、3m超えのウォルナット材を使用した置床です。天板加工や脚部の加工・取付といった製作工程はテーブルとほぼ共通です。一本技のテーブルをご検討するにあたり、貴重な材料と職人の手仕事から生まれる世界にひとつだけの家具づくりを、ぜひご覧ください。

一本技との出会い

今回のご依頼主は、株式会社ゼンコムさま。北海道美瑛町で貸別荘をオープンされる予定とのことで、施設で使用する家具をお選びになるために、カンディハウス旭川ショップへご来店いただいたのがきっかけでした。

美瑛の豊かな自然に囲まれたこちらの貸別荘では、開放感あふれる半屋外のアウトドアダイニングでは〈ハカマ〉のテーブルを、くつろぎの客室には〈バリンジャー〉のセンターテーブルや特注のベッドなど、多くの家具をカンディハウスで揃えていただけることに。そんな中、最後まで悩まれていたのがプロジェクターの設置場所でした。当初は造作収納を検討されていたそうですが、旭川ショップの壁面に展示されていた置床をご覧になり「これだ!」と直感されたそうです。

向かって右の壁際に設置されているのが一本技の置床

機能や家具としての佇まいもさることながら、一本技に込められた理念にも深く共感していただき、ぜひこちらも採用したいということでしが、問題は材料確保です。希望されている横巾3mを超える長さの置床となると、果たしてそんな材料を用意できるのか。まずは希望に合う材料を探すところから始まりました。

長い間出番を待っていた貴重な材料

一本技専用工房の裏側には、板状になった丸太がずらり。様々なサイズや樹種の材料がスタンバイしています。材料を探したところ、長さは4,400mmもあるもののダイニングテーブル天板としては幅が狭い材料が見つかりました。材料の管理は常に屋外のため、工場のスタッフは冬の気温が低い時期も屋外で選定作業を行います。特徴を活かしきれず長らく眠っていたウォルナット材を目にして、「これしかない」と確信を得ました。

一本技の材料は、節や割れも特長として採用することもあり、製作の前段階で依頼主には材料の状態をきちんと確認いただくことになっています。今回も依頼主に使用予定のウォルナット材の写真をお見せし、「こちらでお願いします」と快諾いただきました。

木材と向き合い、設計図を描く

材料が決まったら、どの部分をどう使うか、簡単な設計図のようなものを材料に直接チョークで書き込んでいきます。これはスミ入れと呼ばれる工程で、材のキズや割れ、節の位置や大きさなどを考慮し、カットする場所やちぎりの位置を書き入れていきます。

※写真の材料は今回のものとは異なります。

その後の加工工程や完成形をイメージしながら、ひとつひとつ異なる木の個性と向き合う大事な工程です。スミ入れが終わると、工場の中に材料を運び入れ、いよいよ加工がスタートします!

家具に姿を変えていく木材

作業台の上に載せられた材料は皮が一部残るなど、森に生えている木を連想させます。

まずはこれを、スミ入れをもとに完成に近い形へ整えていきます。

その後、材料の反りや木目といった様々な要素を目視でチェックしながら、手作業による研磨を慎重に何度も繰り返し、天板の水平を整えていきます。

その後、大型機械を使って天板の表面を研磨し、厚みや水平を決定します。機械に何度かかけて、当初50mmだった天板が最終的に42.8mmの厚さに。長さがあるため、周囲の機械にぶつからないよう天板を出し入れするのも一苦労です。

研磨後の表面はつるりと滑らかになりました。

その後、耳加工を行います。「耳」とは木の表皮にあたる部分のことで、木本来の表情が表れています。この部分をそのまま活かした耳付きテーブルをつくるには、幅が広く質の良い丸太が必要なことや加工技術も必要となるため、希少性が高いと言われています。今回の置床も、自然な風合いがより感じられるよう、耳を残した状態となるよう、表皮だけをきれいに削り取っていきます。

ここまで来ると、だいぶ天板らしい姿になってきました。

その後、再度巾と奥行きを正確にカットし研磨。一口に研磨といっても、使う道具は様々。大型機械から手に持って使う機械まで、様々な機械を駆使しながら、加工工程で何度も発生する作業です。

世界にひとつだけのものづくり

天板加工が一通り完了すると、次は脚部の取付けです。今回の天板は素材本来の形を生かすため、奥行きが一定ではなくなり、脚の取り付け位置も調整が必要になります。細かな部分ですが、特注品の場合は製作工程の中で依頼主の希望に対し綿密な確認や擦り合せを重ねながら、完成に近付いていきます。

脚部はしっかりとした厚みの無垢材を2枚合わせたもの。無垢材による木の動きが一方向に偏らないよう、材料の合わせ方にも気を配ります。

天板裏に溝を掘り、脚を差し込んでいきます。これは「吸い付き桟」と呼ばれる伝統的な技術。テーブルの場合、吸い付き桟を施したうえで脚を取付けますが、今回の置床は、吸い付き桟がそのまま脚となる設計です。

無垢の天板は湿度によって伸び縮みするため、それを防ぐために横木を天板裏に取付けますが、この時に接着剤などで完全に固定してしまうと板の自然な動きを妨げてしまいます。接着剤を使わず木と木を組み合わせることで、板の動きをある程度許容しつつ反りを抑制させることができます。

板の動きを考慮し、溝は長めに掘るのがポイント。また、溝の幅は奥へいくほど狭くなるため、差し込むほどにしっかりと固定される仕組みです。緩すぎず締まりすぎず、ちょうど良いポイントを見極めるため、天板に脚を打ち込んでは0.1ミリ単位で調整し直すという、精度の高い加工が求められる工程となります。接着剤を使わず、天板と脚がぴったりと吸い付いた姿はまさに職人技です。

脚に施したアジャスター埋め込み用の穴や天板裏の溝といった、人の手が触れる可能性がある部分にはすべてやすりがけを。機械でできないところは手に紙やすりを持ち、細部に至るまで滑らかな触り心地を追求します。

脚の取付けが完了したら、仕上げに天板裏に焼印を。「旭川 一本技工房」でつくられた証が刻まれました。裏返し、仕上げとして天板表面を最後に研磨。手で感触を何度も確かめながら仕上げ、木部の加工が終了しました。

オイルとワックスで仕上げるなめらかな天板

一本技のアイテムは、木の持つ自然な風合いを存分に味わえるよう、すべてがオイル仕上げとなります。オイルを塗る前には必ずやすりをかけて表面をきれいに整えた状態で、刷毛でオイルを薄く全面に塗り、その後拭き取りを。オイルの浸透が均等になるよう、作業は手早く行います。

塗り終わったら1日乾かし、翌日に再度同じ作業を繰り返します。そして、最後はワックスで仕上げを。オイルの後にワックスで仕上げるのは、他所ではあまりやらないかもしれませんが、触れた時のなめらかさを追求するため、一本技のテーブル類はすべてオイルを塗った後にワックスで最終仕上げをしています。

これにてすべての製作工程が完了しました。出荷前の検品が終わると梱包され、お客さまのもとへ届けます。

今回の納品先である北海道美瑛町に新しくオープンした1棟貸しの宿泊施設
設計:Project O
https://www.project-o.co.jp/%E7%BE%8E%E7%91%9B

奥の壁際に設置されているのが今回製作した置床

設置場所にぴたりと納まり、お客さまも「イメージ通り」とご満足いただけたご様子。希望する空間に、希望する用途で家具を設置できるのは、特注品ならではの魅力です。特に一本技では、材料選定から職人が責任を持って携わるため、こだわりの一品をお求めの方にはおすすめです。

今回は特注の置床でしたが、一本技では既製品のセンターテーブルやサイドボードに加え、樹種や脚の種類を選んでおつくりいただけるセミオーダーのダイニングテーブルもラインアップしています。ホームユースはもちろん、オフィスや公共施設への納品実績も多数ございます。北海道産の材料と職人の手仕事の魅力が詰まった一品をお探しの方は、ぜひご検討ください。

一本技 ラインアップ